1993年、それまで「チャンピオンズカップ」と呼ばれていたその大会は「チャンピオンズリーグ」
にその名を変更した。試験的にリーグ戦を開始したUEFAはこの数年後、いくつかの事情によって出場
条件を緩和せざるを得なくなる。
元々格差のある各国リーグだったが、ボスマン判決 (注1)の影響でそれは決定的なもの
となった。かねてから「他国のチャンピオンよりうちの方が強い」と主張していた強豪リーグ
のチームと「弱小リーグのチャンピオンチームが出場するより、二位以下でも強豪チームの方が視聴
率が取れる」と要求していたマスコミを後押しする事となったのである。
テレビなどの放映権料に大きく依存しているUEFAはその要求に屈し、従来の[欧州各国リーグの優
勝チームがトーナメントでその優劣を決める]という大会綱要は、[UEFAランキングで上位国のリーグは複数チー
ム出場する事が出来る]へと変わった。1997年の事である。
それによって最大で32だった参加チーム枠は爆発的に増加、参加条件も極めて複雑なものとなり
(注2)大会の様相は様変わりした。
地域の土着性が根強いヨーロッパの市民にとって「おらが村」のクラブチームは魂であり、それが世界の晴れ舞台に立つことはそれこそすべ
てを投げ打ってでもスタジアムに駆けつけなくてはならない一大事である。たとえ可能性が薄くとも、
「ヨーロッパナンバーワン」という称号を得られるかもしれないのだから。
そうやって大会の注目度は俄然上がり続け、そのうち「リーグよりもチャンピオンズリーグを取りたい」
と公言する選手まで現れるほどになった。
しかしそんな最大級のイベントを企業が見逃すはずもなく、チャンピオンズリーグには複数の巨大企
業がスポンサーにつくようになる。テレビの放映権料はうなぎ上りに高騰し、各クラブはこぞってそれを
欲しがった。
また出場するチームが増えた事で試合数も格段に増え、選手たちへの負担はより一層重くなった。
近年、試合中不慮の事故によって選手が亡くなるなど由々しき問題が発生したが、それらが一要因になっ
ている可能性も指摘されている。
強いチームが莫大な金を掴み、弱いチームはただ去るのみ。クラブ間の経済的格差はますます広
がり、「ヨーロッパナンバーワンのプライドをかけた戦い」という崇高な目的は、より長く大会に残り、
より高額の放映権料を手にし、それによってクラブを潤沢にする、という別の構図を生み出した。
それは、サッカーが経済に蝕まれた瞬間でもあった。
プロのサッカー選手はボランティアでサッカーをしているわけではないし、一般的な人々よりはるか
に高給である。肉体的に非常に激しい運動をこなし、既に文化と呼べるまでに発展したスポーツを通じ
て我々に最高の興奮と娯楽を供給してくれるのだから、それも充分ふさわしい対価と言えるだろう。
そういった選手たちが、より良い環境、より高い年俸を求め、それをモチベーションにしてサッカーを
続けていく事を非難する権利は誰にもない。それはどの世界でも同じだし、彼らは文字通り自分の力の
みで這い上がっているのだ。
しかしあなたは、このCLに優勝し歓喜のビッグ・イヤーを掲げる選手やスタッフを見たことがある
だろうか。半ばで敗退し、ピッチ上で嗚咽する選手を見たことがあるだろうか。何もCLに限ったこと
ではないが、そのような選手たちを見ても、己の損得を度外視してただひたすらに夢を追いかける人た
ちがいるということを、否定する事が出来るだろうか。
確かにサッカーは経済という大きな波に呑み込まれ、今や世界的なショービジネスとして確立された。
しかし、一度は見て欲しい。戦っている選手たちのその真剣な眼差しを。そして知って欲しい。そ
の必死さに、ただ見ているだけで涙が溢れて止まらなくなるような試合があることを。
「チャンピオンズリーグ」という大会は、これからもいろいろと変わっていくだろうと思う。そして、
目には見えない様々な問題が生じてくるだろう。たくさん試合が見られて、見ていて面白ければいい。
そう思うのは楽だが、本当にサッカーを愛するならその裏に隠れた問題を糾弾し、選手やスタッフたち
を守っていく必要がある。それこそが、真にサッカーを愛するものの使命ではないだろうか。
僕らは、サッカーが好きなのだから。
注1:1995年12月15日、ベルギー人サッカー選手のジャン・マルク・ボスマンが、
@すべてのクラブは、契約が終了した選手に対して移籍金をとることなく移籍を認めなければならない
(=契約が終了したプロサッカー選手のEU圏内での移籍は自由)
AEU圏内のスポーツ連盟もしくは協会は、自国の選手権においてEU圏内の選手を外国人扱いすることはできない
(=EU圏内の国籍をもつ選手はすべて同等に扱う)
という訴えを起こし、それらがEU司法裁判所によって認められた。
これによって、歴史と伝統のあるかつてからの強豪リーグの強豪チームに選手が集まりやすくなり、
自国にリーグを有する国の選手も他国に流れるようになった。フランス、ポルトガル、オランダなどが、
ナショナルチームは強いのにリーグはいまいちレベルが低いのはこのためである。
注2
〈予選〉
○一回戦
・UEFAランキング30〜47位の国の、リーグ1位18チーム
抽選によって2チームずつに分けられ、H&A方式で勝利した9チームが二回戦へ進出
○二回戦
・1回戦から勝ち上がった9チーム
・UEFAランキング10〜15位の国の、リーグ2位6チーム
・UEFAランキング17〜29位の国の、リーグ1位13チーム
抽選によって2チームずつに分けられ、H&A方式で勝利した14チームが三回戦へ進出
○三回戦
・2回戦から勝ち上がった14チーム
・UEFAランキング1〜3位の国の、リーグ3位と4位6チーム
・UEFAランキング4〜6位の国の、リーグ3位3チーム
・UEFAランキング7〜9位の国の、リーグ2位3チーム
・UEFAランキング11〜16位の国の、リーグ1位6チーム
抽選によって2チームずつに分けられ、H&A方式で勝利した16チームが、本大会出場
ここで敗れた16チームは、UEFAカップへまわることができる
〈本大会〉
・前大会優勝クラブ1チーム
・予選から勝ち上がった16チーム
・UEFAランキング1〜6位の国の、リーグ1位と2位11チーム
・UEFAランキングが7〜10位の国の、リーグ1位4チーム
以上の計32チームが、4チーム同士8組に分かれ一次リーグを戦う
○一次リーグ
抽選により4チームずつの8つのグループに分けられ、H&A方式のリーグ戦を行う
ただし、この時の抽選は同じ国・地域などができるだけ重ならないように執り行われる
上位2チームが決勝トーナメント進出
ただし、3位のチームはUEFAカップへまわることができる
○決勝トーナメント
・一次リーグを勝ち抜いた8チーム
04-05シーズンより、試合数の増加による選手の負担を軽減させるため二次リーグは廃止
一次リーグを勝ち上がった16チームでH&Aのトーナメントを行う
○決勝戦
事前に決められた会場での一発勝負
勝ったチームは、南米のクラブチームで行われる「リベルタ・ドーレス杯」の覇者であるチームと争う「トヨタ・カップ」に出場できる。
しかしそのトヨタカップも2004年度、FCポルトの優勝をもって25回に渡る大会の歴史に幕を下ろした。
※チーム数・形式などは大会の開催年度によって異なります。
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