"Football Association(イングランドサッカー協会)"。国名も組織名もつかないごくシンプルなこの名前が
示す通り、FAカップとはフットボール母国であるイングランドで行われる、サッカー界で最長の歴史と伝統を誇
るカップ戦である。
創設は1871年。FAに登録しているチームならばプロ・アマは問わないという参加資格は百数十年を経た今でも
変わっていない。これは、日本の天皇杯のモデルともなっている。
現在では常識になりつつあるホーム&アウェイ方式も実は最近考案されたもので、長大な歴史を誇るこのカップ戦
に当てはめる事は出来ない。その方法とはずばり、「抽選によって決定されたどちらかのホームスタジアムで行われる
一発勝負」というもので、引き分けても延長戦はない。その場合は相手チームのホームでもう一度試合を行うのである
(これをリプレイと言う)。
現在でこそこの第二試合が引き分けた場合は延長戦及びPK戦を行うことになっているが、以前は決着がつくまで
リプレイを繰り返していたというのだから、正に戦国模様である。しかしこれこそが、弱小チームが大物を食う
という劇的なドラマを無数に生み出したのである。
中立地で行われる準決勝を経た決勝戦の舞台は、ロンドンにある“ウェンブリー・スタジアム”。世界中のサッカー
選手がここでプレイする事を夢見ていると言われる“フットボールの聖地”である。イングランド中のフットボールファン
は、毎年このスタジアムで行われる歓喜の宴に熱狂していた。
しかし、この聖地は老朽化のため2000年10月、イングランド対ドイツの試合を最後に大幅に改修することが決まった。
国民的行事として国内でもかなり紛糾したこの問題だったが、名物であったツインタワーも遂には取り壊される事が
決定した。そしてその改修工事は未だ終えていない。
イングランドのサッカー選手はこのFAカップを常に意識の片隅におき、その決勝の舞台で戦う事をほとんど実現
不可能な夢物語のように思っている。そして、もしそれが実現することがあったのなら、誇りを重んじる彼らは何よりの
熱狂と興奮をもってそれを迎えるのである。
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